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cob house

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今わたしが夢中になっている土の家は、
英語でコブハウス(cob house)という。
「cob」は丸い塊のこと。
できあがった家の形も丸みがあるし、
つくるときに土を小さな丸い塊(コブ)にして運び、ぺたぺたと壁に積みあげていくことから、
この名前がついたらしい。

このコブは、粘土質の土と、砂と、水と、わらを材料にして、
こんなふうにしてつくる。↓



日本にも土塀や土壁は昔からあった。
そこにもコブと同じような材料が使われている。
でも日本の場合は木が主役。
木でつくった構造や枠組みに土を薄く塗りつける。

コブハウスでは土が主役だ。
構造全体が土でつくられることが多い。
そして土を補強するためにところどころで木や石が使われる。

コブハウスの魅力は、なんといってもその形だ。
手でペタペタと積みあげていくので、
直線や直角や真四角や完全な円はできない。
ちょっと行き当たりばったりの、味のある表面や形ができる。

そもそも自然界には完璧な直線や真四角や円は存在しない。
だからその点で、コブハウスはとても自然に近い家といえる。
そのせいかな、コブハウスの写真を見ているだけでほっとするのは。

一方、伝統的な日本家屋は直線や直角が多い。
木を使うにしても、
たわんだり節がでこぼこしている木をそのまま使うより、
直線・直角になるように製材して使うことが多い。
日本人の杓子定規な性格が家に反映しているのか、
それともそういう家に住んできたから杓子定規になったのか・・・
あまり繊細さに恵まれず、細部にこだわるのが面倒くさいわたしは、
だからコブハウスに惹かれるのだと思う。
気が楽なの。

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コブハウスは材料代が安い。
というか、ゼロに等しい。
なにしろ足元の土を掘って、それをこねくりまわしてつくるんだから。
わらも田舎ならどこにでもあるし。
運搬費もほとんどかからない。

地球上なら、土はどこにでもある。
だから土は昔からもっとも一般的な建築材料だった。
中国にも、アフリカにも、ロシアにも、中東にも、ヨーロッパにも、
世界中のあらゆる場所に、土の家の歴史がある。
おそらく人類のいちばん最初の家は土の洞穴だし。
今も地球人口の3分の1が土の家に住んでいるそうだ。

いつだったかイランの映画を見たら、
草や木のまったくない乾燥した赤い大地に、
赤土だけでできた家がたくさん建っていた。
家の中もすべて土。
木の生えないそんな厳しい土地でも、地球は人間に家を与えてくれる。
土の家にはそういう無差別のやさしさがある。

コブハウスは時間さえかければ、そしてやる気さえあれば、
素人でも自分でつくれるそうだ。
女でも、子どもでも、老人でも。
上のうちふたつのカテゴリーにおさまるわたしは、これを知って狂喜した。
これもまた土の家の無差別のやさしさだ。

といっても、土台とか屋根をつくるには少しばかり男の腕力が必要かもしれない。
今から男性を誘惑するほどのホルモンもフェロモンもないし、
食べ物でつれるほど料理はうまくないし、
財力も凄みもないわたしは、
さてどうしよう・・・?

それはともかく、自分で建てられるということは、
人件費を払わなくてすむということだから、
建築費はますます安くなる。
しかも自分の建てたいように建てられる。
なんちゃらハウスの既製の設計図に従わなくてもすむということだ。

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コブハウスでは化学物質は使わない。
使いたければ使えるんだろうけど、使いたい人はあまりいないだろう。
だから身体にいい。

そもそも土や粘土そのものが、身体にいい。
土は体内の毒を吸いとってくれるらしい。
家をペタペタとつくりながら、手の泥パックをしているようなものだ。
すっぱだかになって全身でペタペタすれば、もっといいだろう。
逮捕されなければ。
心にとっても、土の感触はぜったいいいと思う。
つくる過程で粘土細工の快感と浄化作用を味わえるし、
できた家も大地の優しさで心をなごませてくれるだろう、きっと。

身体にいいだけでなく、もちろん環境にもいい。

今日本でつくられている家には、
化学合成物質や金属がたくさん使われている。
そういう物質は、生産時にも、廃棄時にも、運搬時にも、
環境を汚し、エネルギーを消費する。
しかも、醜い。
今までわたしが家を持ちたいと思わなかった理由のひとつは、
現代の家が醜いからだ。

こういうことに関して、
ほとんどの消費者は要求を出せない。
自分で設計士を雇えて材料にも注文をつけられるのは、
少数のお金持ちだけ。

でも土の家ならば、自分でつくれるんだから、
自分の希望を形にできる。
これは庶民が「力」を持てるということだ。
企業の言いなりにならなくてもすむということだ。
何でも自分でやろうとするところから、道は開ける。
はず。

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土は熱をためこむ性質があるので、
コブハウスは冬は暖かく、夏は涼しい。
だから冷暖房の費用とエネルギー消費を低くおさえらえる。

耐火性が抜群なので、山火事の多い地区にお住まいの方や、
てんぷら油やアイロンがオンになっていることを忘れて、
外出してしまうようなうっかり母さんのいるご家庭には、
もってこいだ。
わらが土と土をしっかりつないでくれるので、
地震に対する強度も高い。

コブハウスは雨や寒さにもよく耐える。
英国にはコブハウスが何万軒もあって、
その多くは5百年ぐらい前から今にいたるまで人が住んできたものだそうだ。
雨の多いイギリスでそんなにもつのなら、
日本でだっていけるんじゃないか?
しかも土は湿気を調整してくれる。
屋外がじめじめした日でも、乾燥した日でも、
屋内の空気は快適な湿度に保たれる。

それなのになぜ日本では土の家があまり普及しなかったのだろう?
日本は木が豊富なので、まず木に手が伸びたのだろうか?
いやそれよりも、日本の雨は、ときどき激しい降り方をする。
イギリスのしょぼしょぼ降る雨とはだいぶちがう。
激しい雨で水たまりができたり水流ができたりするような場所には、
コブハウスは向かないらしいから、そのせいかも。
もし建てるなら、土台を石でしっかりつくり、
大きな屋根で雨から壁を守る必要があるそうだ。
うーむ・・・

イギリスでは100年ほど前までコブハウスが建てられていたし、
アメリカでも150年ほど前まではあちこちで見られたらしい。
でも産業革命のころを境にして、コブハウスはまったく建てられなくなり、
その技術を伝える人も死にたえた。
産業革命は、人の美意識や身体感覚まで変えてしまったようだ。
でも最近、自然回帰の意識が高まるとともに、
アメリカやイギリスではこの技法を復活・普及させようとする動きが、
活発になってきた。

考えてみたら、衣食住は人間が生きていくのに必要最低限のもの。
それなのにいつごろからか、大金がなければ家を持てなくなった。
その大金を稼ぐのに朝から晩まで働いて、
子供と話す暇もなく、花鳥風月をながめる暇もなく、
やっとローンを払いおわって退職したら、
身体はぼろぼろになっていて、
やっと手に入れた家は、
50年で風化する安っぽいプラスチック製だった。

とこういうアリ地獄から抜けだすのに、
土の家はひとつのヒントになるかもしれない。
自然から隔てられてしまった現代人が自然とのつながりを取りもどすのに、
土の家は大きな力になるかもしれない。

とまあ、こんなことを、この本を読んで学んだり考えたりした。
          ↓


著者たちはアメリカでコブハウス普及運動の先陣を切った人たち。
昨夜、ガガの留守に早寝をしようとしてできなかったのは、
この本を読んで興奮したからだった。
全部で340ページのうち、まだたったの63ページ。
これから場所の選び方、計画の立て方、コブのつくり方、土台や屋根のつくり方など、
具体的に読んでいく。
困ったなあ・・・睡眠不足。




Wayward hum by Vashti Bunyan ♪
by homeopa | 2012-10-10 20:29 | こだわり