pimboke6

cleaning the house

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わたしには不動産もなければダイヤもない。
死んだとき、ガガに残せるものといったら、
金銭的価値のほとんどないカメラたちと、
やたらに大きくて頑丈な電気掃除機、キングネプチューンくらいだろう。


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この電気掃除機には、50万円くらい払った。
買ったのは15年ほど前、
毎日ガガのアトピー性皮膚炎と格闘していたときだ。

ある日、布団クリーニングのセールスウーマンがやってきた。
毎月お金を払うと、週に1回、この掃除機で布団を吸引してくれるというサービスを、
売りこみにきたのだ。
「ちょっとやってみましょう」 と言って、うちの布団を出させて、
その掃除機でグァーンと布団を吸ったら、
掃除機の下の水タンクにダニの死骸や糞がぼったりとたまって、
「えええーー! こんなに!」 と、
クールなわたしも顔面がうっ血するほどの結果だった。

この掃除機のすごいところは、吸塵力が強いことと、
下の水タンクにゴミをためるので、
ホコリもそこで吸収されて排気がクリーンなこと。
だからNASAでも使われている、とセールスウーマンさんは言う。
そしてさらに、
「娘さんがアトピーなら、なおさらダニ対策はしっかりしないとね」
とたたみかける。

ほおー、へえーと聞きながら、わたしは思った。
毎月お金を払いつづけるなら、
掃除機を買っちゃったほうが得なんじゃないか?

「この掃除機を買っちゃうことはできますか?」
「え、ああ、これですか? これは普通はあまり……ええ、まあ、できますよ」
「ちなみに、おいくら?」
「えっとー、○○万円ですが」
「○○万円か・・・」 とたじろぎつつも、逆にわたしの心臓は高鳴ってきた。

「実をいうと……今、この掃除機のキャンペーン中なんです。
 今日お買い上げいただくと○○万円ですが、
 明日になると、○○万円に上がってしまうんですよ。
 あ、そういえば、車の中に新品をひとつ積んできているんだわ。
 買うなら今日のうちですね。クーリングオフも効きますから」

最初にあまり売りたくなさそうな口調だったのは、
逆にそうやって、なんとしても買いたい! と思わせるテクニックだったのだと、
気づいたのはあとになってから。

結局、三十数万円のものを、
いちばん長い分割払いにしてもらって約五十万円で買った。

そのことを報告したときの夫の顔は、かなり怖かった。
夫が30万円のデジカメを買ったときと、50万円のデジカメを買ったときの、わたしの顔と、
どちらがより怖かったかは、今となってはわからない。

わが子のためには数十万円の出費なんてなんでもない、
と思うくらい子煩悩な母だったわけではない。
毎日ガガの皮膚をながめてため息ばかりついて、鬱屈していた心に、
ちょっと魔が差しただけだ。

でもそれ以来、この掃除機を買ったことを後悔したことはなかった。
暮らしの手帖の実験結果では、
この掃除機の排気にはかなりホコリが混じっているということだったらしいけど、
わたしの体感としては、排気はとてもきれい。
大きくて重いけど、頑丈で、つくりがシンプルで、
よけいな機能がまったくついていないない。
コードをするすると巻きとる機能さえついていないので、
コードは本体のまわりにぐるぐると手で巻きつける。
今はやりのマイコン機能ももちろんついていない。
だから修理すればずっと使える。

そんなわけで、大好きだったんだけど、
原発事故以来、だんだん使わなくなってきた。
最近のうちの掃除はもっぱら箒と雑巾。

考えてみれば、うちはカーペットを敷いていないから、
べつに掃除機を使わなくてもいいのよね。
箒に慣れてくると、気軽にちょこちょこはけて、がんばらずに掃除ができる。
しかもしばらく前から、ガガの布オムツを利用した雑巾が心地よくて、
掃除が楽しくなった。
家の中のいろいろなものを手でなでてきれいにしていると、
不思議にしあわせな気分になる。
今のわが家は掃除機で掃除をしていたころよりずっときれい。
そして掃除のあいだ、音楽が聴ける。

そんなときにこんな本を読んだ。


「愉しい非電化 エコライフ&スローライフのための」 藤村靖之著

あんまり期待せずに買ったんだけど、
期待の5倍ぐらいおもしろい本だった。
そしてわたしが掃除機から箒と雑巾にかえたときに感じたようなウキウキ感が、
たくさん詰まっている本だ。

今わたしが使っている電気のどれくらいが本当に必要な電気なのだろう?
電気を使うことで失われてしまった生活の喜びが、どれほどあるのだろ?
脱原発のために我慢して節電しよう、とか言ってるけど、
電気を使わないことは、
むしろ今まで見逃していた喜びを発見することなんじゃないか?

といろいろ思った。
一見、ハウツー本のようだけど、中身は思いのほか濃かった。

この中に箒の名品 「白木屋傳兵衞の江戸箒」 のことがでてくる。
今使っている箒 (近所のスーパーで買った) がこわれたら、
絶対これを買おう。
「はりみ」 も一緒に。
そして死ぬまで大切に使おう。
キングネプチューンはやっぱり大好きなので、
ときどき布団のダニの死骸や糞を吸うのに使って、
わたしが死んだらガガにもらってもらおう。
この掃除機はたぶん3世紀はもつよ。



feeling good by nina simone ♪






※どうしても原発を動かしたい関西電力の裏事情(2)
 (だいぶ前の放送ですが、今見るとますます腹が立つ)

by homeopa | 2012-07-02 18:13 | 日々の暮らし